認定NPO法人 ファーストアクセスは2015年11月27日、東京大学の山上会館にて
東京大学の国際協力学生団体 GREEN HEARTSと共催で低炭素社会実現のための技術をテーマとした国際イベント「東京炭素会議 2015-電力自由化と低炭素エネルギー」を開催しました。
このイベントには一般社団法人 電気学会様よりご後援を頂いております。
(以下、敬称略)

後援 : (社)電気学会

講演 Lecuture

「電力小売全面自由化に向けた東京電力の挑戦」
東京電力株式会社 執行役員 カスタマーサービス・カンパニー バイスプレジデント
佐藤 梨江子様

東西の二大電力会社と新電力最大手という最強の布陣を揃えた国際会議は、東京電力株式会社 執行役員 カスタマーサービス・カンパニー佐藤 梨江子バイスプレジデントのご講演で幕を開けました。

東京電力管内は3,000万近くにのぼる国内最大の契約口数を抱えており、シェア獲得を狙う他社(大手電力会社や新電力)との競争は最も厳しいものになると予想されますが、追われる立場の東京電力は福島第一原発事故の処理や廃炉そして賠償などを抱えるうえ、2012年7月31日には原子力損害賠償・廃炉等支援機構から1兆円の出資を受けたことで議決権の50.11%を握られ、実質国有化されています。加えて、低コストで安定した電力を供給できる柏崎刈羽原子力発電所6・7号も当面は再稼働が見込めないため、非常に厳しい経営環境のなか2016年4月から電力小売の完全自由化を迎えることになります。

その東京電力のマーケティング部門にあたるカスタマーサービス・カンパニーの佐藤副社長は

「東京電力は福島の復興に最後まで責任を持ち、それを完遂するために自由化された電力市場で勝ち抜いてゆく」

という姿勢を冒頭で力強く示され、電力市場が厳しくなったとしても被災者の方々から決して目をそむける事がない事を明言されました。(佐藤副社長はかつて福島第1原発事故の補償問題をご担当されていたこともあり、この言葉を疑う余地は一切ないと言えるでしょう。)

そして自由化市場については、
「電気の品質は同じ。価格だけの競争ではなく、ライフスタイルに最適なサービスを総合的に提供できる会社こそ生き残る」
と、他社にも正面から向き合ってゆく意思を表明されました。具体的にはスマートハウスの推奨や地域冷暖房システムの導入、法人向けWebサービス“TEPCOビジネスプラットフォーム”、家庭向けWebサービス“住宅ソリューション”など様々なアプローチを用意し、例えば10年前の冷蔵庫を使用してるご家庭に対して「最新型にすると***円の節約になる」といった具体的な提案を通してお客様を支援するなど、HP・電話・訪問など様々な手法でアプローチしてゆく、とのこと。そして自社内で調達するのみならず、積極なアウトソーシングも活用してお客様のニーズに最善の方法にて応えられる体制を整備するそうです。
このとおり、圧倒的な供給力を持つリーディングカンパニーながらも価格競争に陥らない戦略をご紹介して下さり、あくまで正当勝負で自由化市場に臨むスタンスを明確に示しておられました。
そして最後にも「福島を決して忘れず、廃炉に向かいながら、大胆なイノベーションを通してお客様ひとりひとりのニーズに応えてゆく」との言葉を残してご講演を締められました。

講演 Lecuture

「電力システム改革下での関西電力の価値創造とエネルギー効率化への貢献」
関西電力株式会社 お客さま本部 担当部長 西村 陽様

続いて電力自由化に関する日本有数の論客であり、業界筋からは「関西電力の良心」とも呼ばれる関西電力株式会社お客さま本部・担当部長の西村 陽様がご登壇されました。西村様は関西電力で調査・戦略・マーケティング・電力システム改革等をご担当される一方、学習院大学をはじめ関西学院大学、大阪大学大学院工学研究科等でも教壇に立たれており、この日も「電機事業者」としての立場に加えて「学術研究者」としてのお立場からもご解説頂くことができました。

まずは電力市場について

・事業者が狙う顧客層は非常に限られている
・価格競争のみで勝負している電力市場は世界のどこにも存在せず、複数の製品やサービスをセットとして提供する「バンドリング・サービス」でいかに勝負できるかどうかが成否を分けることになる


と分析されたうえ、「利益の取れる客層は上位の20〜25%に限られており、旧来の電機事業者も新電力もそこをターゲットにしないと事業が成り立たない」と解説。また市場の傾向としては

新規参入事業者:「消費者との直接のチャネルを有するガス、通信、ケーブルテレビ、携帯電話、ネット販売事業者が主体になる」
顧客:「比較サイトなどインターネット上での情報をもとに電力会社をスイッチする層が多くなる」

のように要約されました。続いて電力自由化に向けた関西電力の戦略として

@ プラットフォームの構築
A (完成したプラットフォーム上で)どのように価値を想像するか

の点が最重要課題になると指摘した上で、関西電力は電力という主力商品に加えてガス・通信・防犯など様々な家庭向けサービス(=プラットフォーム)を用意するとともに、省エネルギーなどのエネルギー・マネジメントを通じてお客様にとっての価値を想像する戦略を追求してゆく、とおっしゃいました。

そして、関西電力のマーケティングにおいては前述のような包括的サービスを提供するだけでなく、常にエネルギー効率の向上を通して低炭素社会への貢献も忘れない、という姿勢も示されました。

講演 Lecuture

「低炭素社会の実現を目指した新たな料金・サービスメニューの開発」
株式会社 エネット 経営企画部 部長 秋山 一也様

休憩を挟んで後半をスタートさせてくれたのはエネットの秋山一也経営企画部長でした。同社は2000年、NTT ファシリティーズ(40%)・東京ガス(30%)・大阪ガス(30%)の3社によって設立されて以来、新電力のリーディング・カンパニーとして長年にわたる実績を上げております。既に全国9地域において2万軒以上もの顧客を獲得しており、全新電力におけるシェアの4割を占めています(以前は5割超)。

エネットの電力調達先は自社保有の発電所や親会社保有の発電所をはじめとして、合計200の発電所であり、天然ガス火力のほか水力、太陽光発電や風力、バイオマスなどの再生可能エネルギーも組み合わせております。そしてエネットの主な役割はこの200の電力供給源と2万の消費者を最適コストにおいて必要な量を必要な時にマッチングさせる事ですが、エネットの強みは社名の由来でもある“Energy + Network = ENNET”の表現されているとおり、そこに最先端のIT技術を活用していることです。

例えば電力ピーク時に必要な設備10%の年間稼働率は2.5%しか使われておりませんが、そのピーク電力を供給するために500億円ものコストがかかっております。そこでエネットは需要と供給をITによって最適マッチングを実現させると電力会社とユーザーのみならず、社会全体にとっても大きな利益をもたらしますが、エネットはこのような “スマート・サービス”技術を開発してきました。

ただし、これらのスマート・サービスはユーザーのエネルギー・コストを減らす一方でユーザーの参加も必要であり、そして秋山様はスマート・サービスにとっての大きな課題を「ユーザーの飽き」という点もご指摘されました。というのも、省エネルギーや節電を続けてもらうためにはサービスの提供側も創意工夫も欠かせない模様であり、そこでキャッチーなシステムを構築したり、競争心をあおったり、あるいはポイントを還元したりと、様々な方法に挑戦しているそうです。

ほか、一方的に消費電力を減らすよう依頼する代わりに、コジェネレーション設備を有する顧客と組んで発電量を調整してもらうことや、再生可能エネルギー設備を持つ自治体と組んでスマートコミュニティを構築することなど、今後もエネルギーとITを独自に組み合わせる技術の開発を通じて、電力自由化のメリットをより多くの顧客に届けたい、との事です。

ただし、これらのスマート・サービスはユーザーのエネルギー・コストを減らす一方でユーザーの参加も必要であり、そして秋山様はスマート・サービスにとっての大きな課題を「ユーザーの飽き」という点もご指摘されました。というのも、省エネルギーや節電を続けてもらうためにはサービスの提供側も創意工夫も欠かせない模様であり、そこでキャッチーなシステムを構築したり、競争心をあおったり、あるいはポイントを還元したりと、様々な方法に挑戦しているそうです。
ほか、一方的に消費電力を減らすよう依頼する代わりに、コジェネレーション設備を有する顧客と組んで発電量を調整してもらうことや、再生可能エネルギー設備を持つ自治体と組んでスマートコミュニティを構築することなど、今後もエネルギーとITを独自に組み合わせる技術の開発を通じて、電力自由化のメリットをより多くの顧客に届けたい、との事です。

ショートプレゼン Lecuture

「電力小売全面自由化に向けた東京電力の挑戦」
ヴィオレタ・ガイザウスカイテ、駐日リトアニア共和国全権公使

ここでヴィオレタ・ガイザウスカイテ駐日リトアニア共和国全権公使が飛び入り参加し、同国が直面しているエネルギー安全保障の問題とビザギナス原子力発電所についてショートプレゼンして下さいました。

本日の国際シンポジウムは日本における電力自由化がテーマだということで、ぜひともリトアニアの事も知って頂きたいと思って参加した。というのも両国のエネルギー事情には共通点が多く、この機会に是非とも皆さんと知識を共有させて頂きたいと考えています。

リトアニアにはかつて世界最大級の原子力発電所(イグナリナ原発、2×ロシア製RBMK-1500)があり、電力を輸出して近隣諸国を支える電力輸出国でした。しかし大事故を起こしたチェルノブイリ原発と同型の原子炉であったことや、1990年にソ連邦から独立したことに伴い原発運営に対するソ連の支援もなくなったことから閉鎖を求める声が強まったため1号機は2004年に、そして2号機は2009年に閉鎖され、一転して電力の輸入国に転じることとなりました。これはエネルギー安全保障上およびエネルギーの独立性における危機であり、当時は有線の高い政治問題として扱われていました。
しかしその後に政府が電力自由化を進めた結果、リトアニアでは競争が促進され、今ではEUの中で最も電力価格が安い国になりました。

このようにリトアニアでは原子力による電力の大幅減を経たのち電力自由化を実現したという点で日本と似たような境遇にあるので、私たちの経験が何かしら日本のお役に立てる事ができれば幸いです。

プレゼンテーション Presentation

電力自由化と低炭素経済を両立する東芝の系統技術
株式会社東芝 執行役常務待遇 首席技監 竹中 章二様

統技術の世界最高峰・東芝さんの竹中 章二執行役常務待遇首席技監が電力自由化および再生可能エネルギーと電力技術についての概要を解説して下さり、加えて東芝さんの電力貯蔵の最新技術や水素エネルギーについてご紹介して頂きました。

電力系統とは発電機・変圧器・電線などのハード機器と、それらのハードを制御する機器を総括したシステムを総称したものですが、ただ発電機を回せば自動的に皆様のもとへ電気が届くかというとそうではなく、電力の安定供給を司るためには周波数と電圧を一定枠内に収めるよう電力系統をコントロールしなければなりません。

電力市場が自由化される前には基本的に一社が全ての発電設備と送電設備を管理し、電気の流れは一方向であった(垂直統合)。しかし自由化後には多くの新電力会社(PPS)が参入したため電気の流れは双方向となり、さらに発電にしか責任を持たない事業者が増えることで送配電の安定化を保つための投資インセンティブを保つことも困難となる。

つまり、垂直統合の時代と比べて自由化後には系統の安定化が確実に難しくなるが、それと同時に送電系統への投資も確実に減少することが予測されるため、その状況下において電力系統をいかに安定化させるか、経済産業省も発電事業者もメーカーも知恵を絞らなければならない。(電圧・周波数の乱れ、停電の増加、停電からの復旧時間の増加…)そして、我々はメーカーとして信頼性の高い系統安定化技術を低コストで提供することが務めです。

中でも蓄電システムソリューションは最も大切な要素の一つであり、東芝では需給調整用、系統負荷平準化、EV充電ステーション安定化用、大規模システム、PV発電における出力変動抑制用、事業所用そして家庭用に製品化している。また、並行して東芝は国内各社と組んで蓄電システムの国際規格化に向けても取り組んでおり、IEC規格を日本連合の主導で進める委員会の中心となって海外メーカーに後れを取らないような体制づくりを進めております。

例えば近年ではリチウムイオン電池が国内外で注目されていますが、エネルギー密度の高い電力を蓄える能力がある反面で大きな出力を得るのは困難であり、そのデメリットをいかに克服するかがメーカーに問われていす。このように技術的な課題はエンジニアにとっては腕の見せどころでもあり、東芝も国内外の優れたメーカーとして新しい電力技術を開発してゆきたいと思います。

パネルディスカッション Panel Discussion

自由化市場とスマートグリッド技術およびスマートコミュニティ技術の展望

<パネリスト>
東京電力株式会社 佐藤 梨江子様、関西電力株式会社 西村 陽様、株式会社エネット 谷口 直行様、株式会社東芝 竹中 章二様

<モデレーター>
東京大学 公共政策大学院 教授 有馬 純

そして最後は東京大学の有馬純先生がモデレーターとなってパネル・ディスカッションを導いて下さいました。

全面電力自由化によって消費者の立場からは想像もつかなかったようなサービスが多く生まれており、従来の電気事業者と新電力の各社には敬意を表したい。

有馬:まずは「電力自由化」とは何か、いま一度、当事者である皆様に改めてお伺いさせて下さい。料金は上がるのか、下がるのか?選択肢は確かに増えたが、国民の間では必ずしも完全に理解されていないかもしれず、この機に各社の見解を聞かせて下さい。

佐藤:他国の例を見ても、自由化したら必ず全ての消費者の価格が下がるということはなく、料金が上がったり不便になる事もある。そして最も電気の安い会社を求めてスイッチングを繰り返す消費者はどの市場でも限定的であり、ユーザーの価値観に応じたエネルギー・サービスを提供してゆきたい。そのため、ある程度の商品ラインアップはやはり必要となってくる。

西村:誰が選んでも安くなるメニューはなく、ユーザーそれぞれが適性に合わせて事業者とプランを選択しなければならない。例えばケーブルテレビをよく使う人はケーブルテレビ会社から電気を買うことができるし、ガス消費量の多いユーザーはガス会社を選べばよい。電気の価格比較サイトが出現しているが、それだと表面価格しか分からないため、それが本当に自社や自分にとって最適かどうかは分からない。

秋山:まずは競争の激化によって全般的に価格が下がっている事を指摘したい。とりわけ新電力は「従来の電力会社より安い」事が前提条件として理解されている面があり、まずは競争力のある電気を提供する努力を行っている。そして、この傾向が続く限り、いま数百を数える新電力は時を経て収斂されてゆく事になると思う。

有馬:自由化の先達であったイギリスでは2014年に電力各社が一斉に価格を引き上げたことで消費者が悲鳴を上げたことがあった。あるいはメニューが多すぎて消費者が選択に困るという声が上がり、政府が指導に乗り出した事があった。
また、日本としては電力自由化と並行して低炭素社会の実現という事も並行して進めなければならないが、電力会社として本問題をどう捉えているか?そして東芝はメーカーとして、最新のIT技術をどのように低炭素化に役立てるのか?

竹中:デマンド・レスポンスは現在、あまり重要視されていないが、今から10年〜15年経つとIT技術の発達によって受給バランスの確保に大きく寄与するようになるのではないか。

西村:自由化と温暖化の関係について言うと、小売りの競争だけでエネルギー価格を下げることは不可能に近いし、発電燃料をほぼ輸入に依存している日本で温室効果ガスの排出量を下げるには原発の発電電力量を増やす方法が最も効果的。これを打開するには再生可能エネルギーとデマンド・レスポンスが最も現実的だが、それを促進する制度がまだまだ整っていないので、今後は政治的なバックアップが鍵となる。

佐藤:自由化市場における新規電源のほとんどは価格競争力のある石炭火力であり、その意味で残念ながら電気事業者側から低炭素電源を促進しやすい環境とは言えない。一方、消費側ではIOT(Internet of Things/モノのインターネット)技術が進むことによるデマンド・レスポンスの浸透により、人の手間を介することなく自動的に需要を最小限に抑えるサービスが実現するであろう。

秋山:政府が決定したエネルギー・ミックスの目標値には「節電」が前提とされており、その分野であれば新電力でも大きく寄与する可能性を秘めている。

有馬:いま秋山様がご指摘されたように、日本政府が2015年7月に発表した2030年の電源構成には17%の省エネがあらかじめ算入されており、年間1.7%の経済成長を続けると同時にエネルギー消費量の大幅な削減も実現しなければならない。

(出典:「平成27年7月 経済産業省 長期エネルギー需給見通し」)
http://www.meti.go.jp/press/2015/07/20150716004/20150716004_2.pdf

従って、電力需要が伸びない中でIT技術の開発によりデマンド・レスポンスを進化させて需要を抑えるとともに、東京電力の佐藤様がおっしゃったIOT技術の普及によって自動的に社会全体のエネルギー消費量を最小限に落とすことが将来の低炭素社会を実現できる要素となるであろう。

西村:いま計画されている石炭火力は全て東日本(50Hz)。それは計画を立てている電気事業者が「東日本の原子力発電所は再稼働しない」と予想しているからであり、したがって将来の日本における温室効果ガスの排出量は原子力政策に大きく依存しているのが現状である。

有馬: ここで会場からの質問を受けつけます。

一般質問: 東芝さんにIOT技術の将来動向は?

竹中:水素技術が中核になるであろう。水素をいかに発電に使うかが発電のみならずCO2削減においてもメリットがあり、東芝としても水素技術の開発に注力している。
一般論として、将来動向について語るのはリスクが高い。例えばスマートグリッドについては日本にその技術が紹介された当初には営業部門から見向きもされなかったが、必ず中心的な技術になると信じて密かに研究を続けさせ、それが現在になって大きく開花した。このように、信念をもってデマンド・レスポンス技術を開発してゆきたい。

有馬:電力市場が自由化されたとはいえ、ユーザー側の変化も必要。今日の議論で多くのオプションを電力会社側が用意しても、消費者がただ待っているだけでは自由化のメリットはほとんど享受できないことも明らかとなった。
従って、ある程度、ユーザーも時代の変化に追いついてこそ自由化の価値が発揮されるだろう。

MC
山本 理紗子(認定NPO法人 ファーストアクセス 広報官)